3 殺人の手段と結果

3.15 嗜好

 殺人の手段とは異なるが、殺人の目的や始末として行われることがある行為を記載する。

3.15.1 解体

 死体の解体が行われるのには、二つの目的がある。運搬や隠蔽を目的とした解体と、愛着的もしくは屈辱的玩弄を目的とした解体である。
 運搬を目的とする場合、通常は11個のパーツに切断する。頭部、胸部、腹部、上腕と前腕が二組、大腿と下腿が二組で、合計11個である。身元を分からなくするために手指を切断することもある。
 愛着的玩弄を目的とする場合、犠牲者との一体感を得るために死体を食べる行為や、性器や乳房、頭皮を持ち歩く行為が行われる。犯人は、被害者の配偶者や恋人が多い。
 屈辱的玩弄を目的とする場合、死後に顔面を叩き潰したり、下腹部を割いて内臓の代わりに日用品を詰め込む「人間らしさの剥奪」行為、乳房や性器を切り取る「女性らしさの剥奪」行為が行われる。
3.15.1.1 人間の解体と遺棄
 処理後の清掃がしやすいことから、解体はだいたいバスルームで行われる。解体時の血液について、心臓が停止しているので噴き出すことはなく、死後1~2時間経過して凝血すれば血はあまり出ない。手足を関節から切断するのは家庭の道具で可能だが、骨を切るにはノコギリなどの工具が必要である。あるバラバラ死体殺人の犯人である30代の女性によると、解体には3時間半ほどかかったという。
 解体後のパーツの廃棄方法として、細かくして水洗便所に流す方法が用いられるが、後の捜査によって浄化槽や下水管から肉片が見つかっている。また、何回かに分けてゴミ捨て場に捨てる方法が用いられる。遺棄できていないが、冷蔵庫に隠したり、バスタブの中にコンクリート詰めした事件もある。頭部や手首は身元判定に有用であるため、入念に処理される。頭部では、炭化するまで燃やしたり、毛布でくるみバッグに入れて自動車で踏みつぶすといった方法が行われる。
3.15.1.2 大型哺乳類の解体
 狩猟では、シカやイノシシといった大型哺乳類の解体が行われる。おおよその構造は同じだと思われるので、その方法を記載する。

 解体時は、感染症を防ぐため、ゴム手袋と長靴、防水性の前掛け、不織布の帽子とマスクを着用する。解体用のナイフとして、皮をはがすために円い刃のスキナーナイフ、軟骨を切断する細いノコギリ、肉を骨から外すときに刃の幅が細いケーパナイフ、カッターやデザインナイフといったユーティリティナイフが用いられる。

  1. 腐敗が進まないように、止めを刺した場所から2時間以内に処理場まで運搬する。
  2. 血や泥を洗い流す。
  3. 効率的に作業を行うため、ロープやワイヤーで懸吊する。電動クレーンやチェーンホイストがあれば、両足の中足骨(人間なら脛骨に相当?)とアキレス腱の間に切り込みを入れ、解体用の鉄のハンガーを通して吊り上げる。
  4. スキナーナイフを用いて、胸骨の境目から喉に向かって皮を切る。胸骨の境目から股に向かって、内臓を傷つけないように皮だけを切る。ペニスに近づいたら、ペニスと肛門を避けて迂回しながら肛門近くまで皮を切り、逆方向も同様に切る。
  5. 尿道を剥がした後、股の中心を切って恥骨をむき出しにする。細いノコギリを用いて、恥骨のつなぎ目の軟骨を切断する。恥骨を開いて直腸をむき出しにし、糞便が漏れないように結束バンドで縛る。
  6. 胸部の皮をめくって肋骨をむき出しにし、細いノコギリを用いて軟骨を切断して左右に開く。
  7. 肛門の周りの皮を大きめに切断する。直腸を手前に引っ張り、直腸の後ろに手を入れて腹膜を引きはがす。横隔膜をナイフの先で突いて切り、気道と食道も切断し、切り離された臓器の一式を下に落とす。
  8. 省略するが、大型の哺乳類であれば皮をはぐ。ここまでを枝肉と呼ぶ。
  9. 続いて、胴体、あばら、前足、後足に切り分け、部分肉にしていく。まず、前足と胴体の間に刃を入れて、筋膜を切り離す。大型哺乳類はこの部分に関節がない。この部分が前足。切り分けた肉はビニールに入れるが、水気があると腐りやすくなるため、タオルやペットシーツで覆う。
  10. 肋骨を逆側に折り曲げ、肋骨と背骨のつなぎ目の軟骨を一本ずつ切断する。この部分があばら。
  11. 腰の内側についている2本の筋肉を取り外し、腰椎と骨盤のつなぎ目の関節を切り、胴体を取り外す。関節は、関節包と呼ばれる白い膜で覆われているので、ナイフで何度か切れ込みを入れて軟骨をむき出しにしてから切断する。
  12. 大腿骨と骨盤のつなぎ目の関節を切断する。この部分が後足。
  13. 省略するが、大型の哺乳類であれば、骨を外して成型する精肉を行う。
3.15.1.3 屠畜
 家畜は我々の口に届くまでに殺害・解体されている。おおよその構造は同じだと思われるので、その方法を記載する。
 大まかな流れは世界共通であり、まず心臓を止めずに動脈を切ることで、体内の血液を押し出し放血する。次に、内臓を、汁や排せつ物を肉にこぼさないように切り離す。場合により、皮をむいたり、部位ごとに切り分けたり、背骨を中心に半分に割いて吊るす。

3.15.1.3.1 日本の豚の枝肉
 シャワーを浴びせ洗いながら、豚を電棒で追い立て、狭い通路の先に一頭ずつ進ませる。立体駐車場のような構造のゴンドラ型の装置で炭酸ガスを吸わせて仮死状態にしたら、肢に鎖をつける。効きが悪かった場合は、額にスタンナーを当てて気絶させる。豚を吊るし、30cmくらいの大きなナイフで喉の血管を切りつつ胸骨を割くように切り上げ、放血を行う。床には常に水が流れており、血が固まる前に洗い流す。
 血を出し切った豚は、一度鎖を外し、コンベヤに載せられる。順に、フットカッターで肢を切り、ナイフで舌を頭から切り離し、両ほほにナイフを入れて頭を切り離し、ナイフやエアナイフで皮を剥く。後肢の骨と腱の間に穴をあけて股鉤で再び吊り上げる。
 次に、銃に似たマシンを肛門に入れ、筒状の刃で直腸と肛門を切り離す。下腹から胸にかけて真ん中に切り込みを入れ、性器を取り除く。腸のあたりをつかんで内臓を引っ張りながら、背中と内臓をつないでいる膜を切り、内臓を丸ごと引きはがす。放血した血液は血液検査し、切り離した頭部や内臓は切開して疾病の有無を確認している。
 エアナイフで部分的に皮を剥いた後、ホッグマシンという機械で皮をローラーに挟んで巻き取り、最後に自動背割り機で背骨を境に真っ二つに切断する。完成した枝肉は洗浄され、冷凍庫に送られる。

3.15.1.3.2 日本の牛の枝肉
 ノッキングペンと呼ばれる狭い区切られた空間に牛を電棒で誘導し、空包銃を額の真ん中に当てて2~3cmの突起を打ち込み、気絶させる。現在は行われていないそうだが、牛が倒れたら、その額の穴に直径1cmくらいのワイヤーを入れ、脊髄を破壊して動けないようにしていた(ピッシング)。次に、喉から胸にかけてナイフを入れて動脈を切り、網目状の床に放血させる。血を出し切ったら、切り口から食道に留め具をつけ、胃の中身が漏れないようにし、後肢に鎖をかけて吊り上げる。
 頭を台に載せ、おでこの皮を剥いて頭を切り離す。次に、ナイフとエアナイフを使い分け、吊り上げている後肢と尻の皮を剥く。BSE対策のために首の切り口にホースを突っ込み、脊髄を吸い出す。肛門の周りを切って、直腸からつなげたまま持ち上げ、ビニール袋とビニール紐で結索する。
 ハイドプーラーとダウンプーラーと呼ばれる機械で2方向から皮を挟み込んで剥がす。次に、牛の腹の中に上半身をほぼ入れ込むようにして、中でナイフを振るい内臓を切り落とす。最後にバンドソーで背骨を境に真っ二つに切断する。

3.15.1.3.3 日本のヤギの枝肉
 大きなはさみにコードがついた道具でヤギの頭をはさみ、電気ショックをかけて気絶させる。後肢を鎖で縛り、吊り上げ喉にナイフを入れて放血する。血が抜けたら、ガスバーナーで全身を焼き、すすを棒で払いながら黒焦げになるまで焼く。焼き上がったら、水をかけながらスチールたわしでこすり洗う。しっぽを切り、肛門の周りに切り込みを入れ、直腸を出して中身が漏れないように紐で結ぶ。胸から顎下にナイフを入れ、気管を取り出して再び紐で結ぶ。後肢の付け根から腹を割き、性器と頭を切り離し、次に内臓を引っ張り出す。最後に、バンドソーで背骨を境に真っ二つに切断する。

3.15.1.3.4 バリ島の豚の丸焼き
 職人が2人がかりで豚を段差のあるところに運び、細長いナイフで首を一突きして頸動脈を切る。腹を踏んで血を出し切ると、熱湯をかけたうえでココナツの殻で毛を剃る。下腹に切り込みを入れ、内臓を引っ張り出して水で洗浄し、代わりに香辛料のペーストを詰め込んでから縫って閉じる。顎の骨を叩き壊しながら口から棒を入れ、棒が半分ほど入ったら豚を垂直に立てて自重で尻まで貫通させる。口や四肢をワラで固定して完成。

3.15.2 拷問

 加虐的殺人では、サディストは拷問を行う。また、過去には刑罰や自白のための拷問が研究され、実際に行われてきた。後者は時代ごとの社会情勢によって、肉体的苦痛に重点を置いたものと、精神的苦痛に重点を置いたものが使い分けられてきた。拷問と言いながらも、致死性が高く死に至らしめるものも多々あった。
3.15.2.1 性器刑
 人体の中で最も弱い外部に露出した部位を狙い、苦痛と恥辱を与える方法。
 道具として、釘抜き、ペンチ、鉄バサミが用いられる。真っ赤になるまで熱してから使用する場合もある。
 男性器は、拷問の対象になることは少なかった。ただ、刑罰としては陰茎や睾丸を切り取る行為は一族を絶やすことを意味し、死刑以上の極刑を意味した。中国の「宮刑」は陰茎をヒモで縛り、くびることで行った。女性器は、拷問と刑罰の両方の対象になった。
 貞操帯は性器を鉄の下着で覆う器具であり、貞操を守る目的以外に、恥辱を与え、脱走防止や晒し者にする用途で用いられた。
 苦悩の梨は、洋梨の形をした、取っ手のネジで花びら状の金属板が開閉する構造の装置である。先端に針やトゲを持つものもあった。閉じた状態で、口、膣、肛門などに挿入し、取っ手を操作することで花びらを開く。口に用いられる場合は、猿ぐつわや飢餓刑のために用いられた。膣や肛門に用いられる場合は、拷問の痕を残さず内部を裂くために用いられた。
3.15.2.2 動物刑
 拷問や処刑に動物を使用する方法。
 古くは、虎やライオンを放ち襲わせたり、犬などに男性器を食いちぎらせたり、馬に拷問対象の髪を結びつけて引き回したり、4匹の家畜に拷問対象の四肢を結びつけて四つ裂きにしたり、皮袋や穴や樽に拷問対象と蛇を放り込んだり、首から下を地面に埋めてハゲタカに襲わせたり、塩水を塗り込んだ足の裏をヤギに舐めさせた(ヤギは塩が好物で舌がざらついているため、染み出した血液を求めて、延々と舐め続ける)記録がある。
 鍋責めは、拷問対象を身動きができないように仰向けにして寝かせ、ハツカネズミがたくさん入った大きな鉄鍋を逆さにして腹部に被せる。鍋の上で火を焚くと、逃げ場を求めたネズミが拷問対象の腹部から皮や肉を食い破りながら体内に侵入する。ネズミがたくさん入った大きな壷に拷問対象を座らせ、壷を熱するパターンもある。
3.15.2.3 枷
 拷問対象が逃亡や抵抗をしないように手や足、首などを拘束して自由を奪うための道具であり、肉体的苦痛と精神的苦痛を与え得る。
 鉄の棒の片端に足を拘束するための大きめの鉄輪が2つ、もう片端に手を固定するための小さめの鉄輪が2つ設けられたものが一般的で、2人が棒の前後で背負うことで運搬できる。吊るせるように鉤がついていたものもあり、この場合は自重によって手足を痛めることになる。鉄は錆びやすいので拷問対象の汗によって腐食が進み、傷口が化膿していたと考えられる。分銅などの重しが設けられた枷や、内側にトゲが設けられた首枷もあった。革手錠はベルトを胴にはめ、左右や前後に設けられた輪で両手首を固定するもので、現在も刑務所の保護房等で使用されている。
 コウノトリや掃除屋の娘と呼ばれる拷問具は、鉄製の三角形の頂点上に首と足首を通す輪があり、辺上に手首を通す輪がある装置で、装着すると前屈になって両足が限界まで折りたたまれた姿勢になる。放置されているだけでも、胸と腹が足によって圧迫され呼吸ができず、首は無理に折り曲げられているので肉離れを起こし、腹筋と肛門の括約筋はけいれんを始める。時間が経つと、窒息や壊死を引き起こす危険があった。掃除屋の娘は、さらに器具をきつく締めあげるためのネジが付いており、急激に巻くと鼻や口や耳から血を噴き出し、時には手指や足指の先端からも血が噴き出し、肋骨が砕けることもあったという。
 鉄の処女と呼ばれる器具は、内側に複数の釘が生えた鉄製の空洞の女人像で、中に入った処刑対象の全身を串刺しにする。使用された記録は、偽金作りの男の処刑一件だけである。アペガの像、ニュルンベルグの鉄の処女、バートリ夫人の鉄の処女、慈悲の聖母、バーデン・バーデンの処女の類型を持つ。
3.15.2.4 鞭打ち
 鞭は、しなる棒やヒモを用いた責め具であり、鞭で人を打つことは拷問や刑罰として古くから世界中で行われてきた。基本的には、致命傷にならない範囲でダメージを与えることを目的とするが、ヒモの先に結び目や金具を設けて致命傷を与える道具にする場合もある。
 スキニング・キャットと呼ばれる鞭は、麻の細いロープを100本ほど束ね、ロープ先端の結び目の中にトゲ玉を入れている。使用する際は、塩と硫黄を溶かした水に浸したため、硫黄によって皮膚はただれて破れ、塩水が激痛を引き起こし、むき出しになった肉をトゲ玉が抉った。
 鎖鞭は鎖を2~3本まとめた金属製の鞭であり、鎖の先端に分銅が設けられている。拷問としては致死性が高いので、処刑具としてよく使われ、内臓を掻き出すこともあった。
3.15.2.5 車輪刑
 ヨーロッパで行われてきた、車輪を何らかの形で関与させて手足を砕く方法。車輪は太陽と同一視され、宗教観と一致していたために長く用いられていた。
 地面に縛られた拷問対象の手足を、執行者が車輪をハンマー代わりにして叩き折る方法と、巨大な車輪に縛り付けられた拷問対象の手足を、執行者がこん棒などで叩き折る方法がある。前者は、四方に伸ばした四肢と胴の下に三角形の角材を差し込み、手足を砕きやすくしていた。折る順番は、大腿、膝か脛、腕という順番だった。後者も、車輪の手足を載せる位置に抉れた部位があり、手足を砕きやすくしていた。刑罰の場合は、いずれも手足を粉砕した後、車輪に絡ませて晒し者にした。
3.15.2.6 火責め
 火そのものや、火で熱した物を使用し、熱によって苦痛を与える方法。

3.15.2.6.1 火そのものを使用する方法
 原始的な方法としては、足の裏や肘や脇の下、掌をろうそくの火で炙ることが行われ、火が消える頃には、脂肪が溶けて皮膚の下がはっきり見えるようになったという。焼けただれた傷口に、塩をすり込む場合もあった。
 蓑踊りと呼ばれる方法は、全裸の拷問対象を後ろ手に縛り、油をたっぷり注いだ蓑と蓑笠を被せ、火をつけた。炎の塊となった拷問対象は、苦しみのために乱舞しているように跳ね回った。
 火車輪は、水車のような形状の巨大な車輪に、側面に大の字もしくは周上に弓なりにして拷問対象を縛り付けた。車輪の下部に火を焚いた皿を置き、車輪を回すことで全身もしくは任意の箇所を焼いた。

3.15.2.6.2 火で熱した物を使用する方法
 かまどで熱した金属製の道具を急所に当てるほか、熱湯や、溶かした鉛や硫黄をかけたり、耳や目などの危険な部位に流し込むことが行われた。
 スペインの椅子は、肘掛けのついた金属製の椅子で、背もたれの上部と肘掛けに輪が、底部に足をはめる鉄台が設けられている。拷問対象を座らせ拘束してから、真っ赤に熱した石炭を入れた皿を近くに置き、熱することで使用する。生ものを油で揚げた時のような臭いが広がると言われ、スペインの椅子に座らされた上に熱した鉄のスリッパを履かされ、骨が見えるまで焼かれて気を失った拷問記録がある。
 かまどで焼いた銅製の皿を拷問対象の目のすぐそばに近づけたり離したりすることで、眼球の水分を蒸発させ、視力を奪う目潰しが行われていた。
 雲仙岳の硫黄泉では、拷問対象を地獄谷の池に立たせ、刀で斬った背中の傷口に硫黄分を含んだ熱湯をひしゃくで注いだ。あっという間に肉が溶け、骨があらわになり、やがて骨も溶けてなくなったという。もしくは、拷問対象の全身を浸けたり引き出すことを繰り返し、その全身はただれ、皮膚が破れた。
 遊郭では体を傷つけない拷問が用いられ、口に竹を噛ませて舌を噛まないようにした上で、ニラ、唐辛子、青松葉などを燃やして煙を拷問対象の顔に吹きかけた。
3.15.2.7 水責め
 水に浸けるか、水を飲ませて苦痛を与える方法。

3.15.2.7.1 水に浸ける方法
 もはや処刑方法であるが、魔女の試罪法に、疑いがある者の両手親指と両足親指を縛って湖や川に投げ込み、浮かんでくれば魔女で有罪、沈んで溺死すれば無罪というものがあった。同じく、海岸に立った柱に処刑対象を縛り付け、満潮時に頭が水に浸かるようにした水磔が行われた。
 水責め椅子は、巨大なシーソーの片側に、拷問対象の座る椅子が設けられた装置である。水中に椅子を沈め、軽犯罪の罪を自白させるために用いられた。檻に入った複数人を同時に水中に沈める、水責め檻と呼ばれる装置もあった。
 水牢は、人一人がやっと立っていられるだけのスペースに、水や汚水が流れ込む設備である。

3.15.2.7.2 水を飲ませる方法
 人間の胃は水を吸収できないため、急速に水を飲むと溺死することがある。また腸で吸収する十分な時間があった場合も、血液濃度が下がり貧血を引き起こす可能性がある。
 拷問対象を頭が下(こうすることで、直ちに溺水状態に陥る)になるように台に縛り付け、鼻を鼻バサミで塞ぎ、口に押し込んだ漏斗から水を流し込む。呼吸ができない苦痛と、膨れた胃が他の内臓を圧迫する苦痛を与える。腹を思いきり踏むなどして水を吐き出させて繰り返す方法と、排泄口を塞いで放置する方法がある。腹を叩いたり、水の代わりに熱湯を用いるバリエーションがある。通常は10リットルの水が用いられた。
 上記と同じ状態から、拷問対象の顔に布を被せ、そこに水をゆっくり注ぐ方法も用いられた。水の重みで布が喉の奥に入り込み、単に水を飲ませるより窒息の効果が高くなる。質問の際は布を引っ張り出す必要があり、内臓を傷つけた布は水と血にまみれ、内臓のように見えたという。水の代わりに石鹸水を用いるバリエーションがある。
 水車輪は、水車のような形状の巨大な車輪に、側面に大の字もしくは周上に弓なりにして拷問対象を縛り付けた。車輪の下部は水に浸かっており、車輪を回すことで水に浸けたり引き上げたりを繰り返した。車輪を高速で回すことで、拷問対象は目が回り、水に浸けられる瞬間に息を止めることができなくなり、無防備な状態で大量な水を飲みこんだ。
3.15.2.8 吊り拷問
 拷問対象を縛って吊るし、自重によって長時間の苦痛を与える方法。
 原始的な方法としては、拷問対象の両手を後ろに縛り、両足首も縛って、逆さにして梁に吊るす方法がある。後ろ足だけを縛った犬や狼を一緒に吊るし、半狂乱になった動物に攻撃させることもあった。
 振り子と呼ばれる方法は、拷問対象を後ろ手に縛り、天井に取り付けた滑車を通して巻き上げ機に繋いだ。長時間宙吊りにされると、肩関節が外れ激痛をもたらす。死なない程度の高さから落下させたり、体に重りをつけて全身の関節を外すこともあった。
 ユダのゆりかごは、天井に取り付けられた滑車と、3~4方向から吊るされ宙に浮いた鉄のベルト、ピラミッドに似た三角錐型の木製の台から構成される。拷問対象の胸部をベルトで締めて浮かし、両足を棒に固定し、肛門、性器、尾骨のいずれかの下に台を置いた。ベルトに繋がれたロープで調整したり、揺らすことで、台の先端が突き刺さり苦痛を与える。長時間放置しても、事故死や必要以上のケガを負う可能性が低いため、何日も吊るして寝させずに苦しめることもあった。似た仕組みで、三角錐型の台の代わりに三角木馬を用いるロバと呼ばれる装置もある。手足に重りをつけ、下半身が引き裂かれて死ぬまで放置する処刑具としても用いられた。
 ドイツ椅子は、背もたれ、肘掛け、足置きなど、人が座ったときに触れるすべての部分に釘が生えた鉄製の椅子である。全裸の拷問対象をベルトで固定し、首に鉄の輪の重りをぶら下げることで、全身に釘を突き刺させる。ただ、荷重が分散されて痛くないという説もある。
 串刺し刑は、拷問対象に杭を刺して放置する方法であり、苦痛を与えることと見せしめに主眼が置かれていた。対象をうつ伏せに寝かせ、脚を広げて拘束し、肛門に潤滑油を塗るか、ナイフで肛門を切り広げる。できるだけ杭を両手で押し込み、その後は大槌で50cmほど打ち込む。最後に杭を垂直に立て、前もって掘っておいた穴に差し込む。すると、対象が生きたまま自重で少しずつ深く突き刺さっていき、やがて杭の先端が脇の下や胸、背や腹から突き出す。腹側から突き出した場合は、重要な器官があまり傷つかず、数日間も死ねないことがあった。杭の先端が尖っていれば、死ぬのが早くなり、杭の先端は口から出る。杭の先端が丸まっていれば、死ぬのが遅くなり、杭の先端は様々な場所から出る。
3.15.2.9 伸張拷問
 人体は屈強な筋肉を持っていようと伸張に対しては耐性が低いことを利用し、手足を引き伸ばして苦痛を与える方法。
 伸張を行う拷問具はラックと呼ばれ、主に水平式と梯子式がある。水平式は、辺上にローラーを持つ長方形の枠組みを地面に置き、バンザイさせた状態で両手と両足をそれぞれ縄でローラーに縛り付け、ローラーを巻き上げることで犠牲対象の体を際限なく引き伸ばす。ローラーに巻き戻り防止用の歯車を設けたものもある。エクスター公の娘と呼ばれる装置が代表例として挙げられる。梯子式は、壁に対して0~45°の角度を持つ梯子で、複数のステップが取り外し可能になっており、犠牲対象の両腕を上段のステップに縛り、足をかけているステップを順に外してくことで体を引き伸ばす。
 刑罰や処刑として、対象の体を極限以上に伸張させることも行われた。手足の靭帯や筋肉が引き千切られ、やがて脱臼する。びっくりするほど手足が伸び、胴体は内臓が透けて見えたと言われる。初期のラックは人力で力任せに行っていたため、上記の状態になる以前に、ショック死や横隔膜の痙攣による窒息死を引き起こす可能性があった。
3.15.2.10 圧搾刑、粉砕刑
 体の部位や全身を押しつぶしたり粉砕する方法。
 原始的な方法としては、身体全体に大岩を落として粉砕する方法が用いられた。また、鉄の破片を埋め込んだ丸太を馬に引かせたり、刃物を備えた戦車を用いて拷問対象を何度も轢いた。石臼の間に全身か身体の一部を挟み、少しずつ潰す方法も用いられた。セメントの中に投げ込まれた拷問対象は、セメントが固まるに従って全身の骨が折れたという。
 長靴と呼ばれる種類は、拷問対象を拘束した状態で、両脚を外側と内側から板で挟み、縛ったり鉄の枠組みで固定する。板や枠組みの間に楔を打ち込むことで、両脚がきつく締め付けられ、最終的には筋肉が破裂し、骨が砕ける。
 スペインの長靴は、ネジで締め上げられるようになっている鉄製の大きな長靴で、両脚を締め付ける用途以外に、沸騰した熱湯やコールタール、油などを長靴の中に注ぎ込んだり、炭火にかざすことで火責めを併用した。
 頭蓋骨粉砕器は、ネジで締められるようになった円錐状のヘルメットと鉄の板を持ち、頭を万力に噛ませるような構造をしている。締め付けると、まず頭蓋骨と脳の隙間が狭くなり、圧力が絶え間ない頭痛を与える。この状態でヘルメットを叩くと、衝撃が脳を通して全身に直接伝わったという。さらにネジを締め付けると、頭蓋骨は頑丈であるため、まずは顎が破壊され、続いて頭蓋骨が砕ける。脳に大きなダメージが残るため、異端審問で用いられたが拷問具としてはあまり用いられなかった。鉢巻のような形状で、内側にトゲが付いた、頭蓋骨を側面から締め付ける装置もあった。
 プレスヤードやリッサの鉄柩と呼ばれる装置は、部屋の天井が重りやネジによって縮んでいく構造になっており、拷問対象の身体を圧搾した。通常は90kgほどまで耐えられるという。
 石抱き責めは日本の江戸時代に用いられた方法で、尖った石版の上に正座させた拷問対象を後ろ手に縛った状態で柱に固定し、49kgの石板を膝の上に載せた。5~6枚積むと、ほとんどの対象は気絶するか息絶えたという。
 ガロットは、身体測定で座高を測る器具に似ており、椅子の背もたれに、ネジを巻いて首を締め上げる鉄輪が設けられている。窒息するギリギリの状態まで締め付け、または窒息を繰り返して自白を促した。
3.15.2.11 解体刑
 鉄製の爪などを用いて、拷問対象の身体を切り裂く方法。
 猫の爪は、柄の先に数本の金属の鈎針が設けられた、熊手に似た装置である。全裸にして両手足を拘束した拷問対象に対して、鈎針を押し当てて皮下に突き刺し、引きずるように器具を動かすことで、肉、神経、内臓を傷つける。
 スペインの蜘蛛は、ハサミのように開閉できる4本の鉄爪を持ち、軸部にロープでぶら下げるための穴が開いた装置である。拷問対象の体をつまんで持ち上げることで、爪がより強く肉に食い込み苦痛を与える。つかむ際は、すぐに肉が裂けて落ちることを防ぐため、主に胴体を骨に引っかかるようにつかんだ。頭部をつかんで、両目や両耳に爪を差し入れる場合もあった。
 凌遅は、人間を少しずつ切り刻んでいって死に至らしめる方法。時代や場所によって、順番や回数は異なるが、中国の清では鼻、両耳、局部、両足、首の順で7ヵ所、ペルシアでは手指、手、腕、足指、足首、両耳、鼻の順、日本の六所斬りでは順番は不明だが腕、脚、耳、乳房、鼻、局部を切り落としたという。拷問対象の体に金網を巻き付け、はみ出した部位を切り取っていき、致命的な部位が後になるようにする方法もある。
3.15.2.12 さらし刑
 拷問対象を恥ずかしい姿や情けない姿にして大衆に見せ、精神的苦痛を与える方法。当人に対する侮辱の他に、近親者への侮辱や、見せしめの目的もあった。
 拷問対象を無防備な状態でさらすために、柱に固定された長方形の板に首と両手首をはめ込むピロリーや、両手首や両足のみを固定するさらい台、檻、時に糞尿で満たされた樽が用いられた。処刑具であるが、人間一人がぎりぎり入れる吊りかごを、死後も長時間高所に吊るす、ハイウェイマンズ・コフィンやジベットも用いられた。遺体にタールを塗り込み、長期間吊るして死体を貶めることも行われた。
 さらし色の強い拷問具として、ブタやロバを模した兜状で、鉄の突起が口に当たり喋れない構造になっている、がみがみ女のくつわや、拘束した姿が笛を吹いているように見える装置や、男根を両手で口に導いているように見えるバイオリン型の装置が用いられた。
 さらし刑では、娯楽に飢えた大衆や、自分勝手な正義感を満たす大衆によるリンチが行われたという。暴力、糞尿をかける、石を投げる、火を押し付ける、身体を切り取ることが行われた。
3.15.2.13 睡眠妨害拷問
 原始的な方法としては、24時間体制で見張りをつけ、居眠りをしたら棒で小突くなどして最低でも2日間眠らせないようにする。すると意識がもうろうとし、誘導尋問に乗りやすくなる。限界に達すると、精神に異常をきたすこともあった。
 拘束した拷問対象の額に、高所から冷水を、ぽたぽたとたらし続ける方法が考案された。しかしこの手の方法は危険とされ、拷問を受けた囚人がたった30分で死亡した例がある。

3.15.3 食人

 一部の性的殺人者や民族は人体を食する。