1 序論

 個人、政治、宗教、世の中に対する恨みの表現方法として、あるいは戦争と名を変え、手段も規模も様々ではあるが、殺人は行われている。この使い古された二文字を陳腐に感じてしまう人もいるかもしれない。しかし、よく思い返してほしい。誰しも一度は怒りの発散方法として、妄想の中で殺人を行っている。手段がなかった、怒りが収まった、踏ん切りがつかなかった、あるいは妨害され現実での行為が伴わなかっただけで、自身が行うことも、他人に行われることも日常的に起こり得る行為である。
 本資料では、この殺人について、様々な視点から情報を提供する。
 さて、FBIの犯罪統一報告書(UCR)によれば、殺人とは「ある人間が他人を意図的かつ不法に殺害すること」だという。「他人」であることから「自殺」は除かれ、「意図的」であることから「過失致死」「事故死」「正当防衛」「加重暴行(殴ったら転倒して意図せず死亡したなど)」は除かれ、「不法」であることから(勝敗や視点によるが)「戦争」は除かれる。ただし、これらの例外は人間同士で決めたルール上の話であり、時代や裁く者が違えば例外であることも例外でないこともある。そこで本資料では基本的に、ルールを排した物質的な、文字通りの「人間が人間を殺害すること」の意味で扱いたい。時折使用する各機関が扱うデータは前者であるので、注意する必要がある。
 キーワードを検索するだけで入手可能な情報に、ゲーム、映画やAR・VRによるリアルな暴力体験、孤立しがちな社会構造、近年の環境は殺人のハードルを間違いなく下げている。一方、薬物や銃器の入手難化や、警察の捜査技術の向上、建造物のセキュリティの堅牢化、法を軽視しがちなネット自警団達、殺人を尻込みさせる環境も生まれている。行う側も、行われる側も、新しい情報をもとに正しい判断を下すことが望まれる。本資料がその一助となれば幸いである。膨大な情報をジョークやイラストを用いず圧縮して記載するため、詳細な情報が必要な場合には元の書籍やサイトを参照してほしい。
 序論のまとめとして、本資料の構成について述べる。おおまかに、殺人そのものに焦点を当てた一部、殺人を取り巻く環境、すなわち行政や司法に焦点を当てた二部、殺人の具体的な例やまとめを記載する三部に分かれる。一部は「殺人の心理」と「殺人の手段と結果」から構成される。「殺人の心理」では、閲覧者にどの段階にいるのか自己判断させ、精神上の整理を促す。「殺人の手段と結果」では、代表的な手段とどのように人体が損壊するかを記載する。二部は「殺人と警察」と「殺人と法律」から構成される。「殺人と警察」では警察の捜査方法について、「殺人と法律」では法治国家において殺人犯がどのような扱いを受けるかを記載する。三部は「殺人の例」と「結論」と「参考資料」から構成される。「殺人の例」では、有名な殺人事件についてこれまでの着目点をもとに述べる。「結論」では、いくつかの殺人の目的について考察を行う。

  1. FBI心理分析官凶悪犯罪捜査マニュアル上下 ロバート・K・レスラー