3 殺人の手段と結果
3.11 交通事故
3.11.1 車
車の交通事故の原因は、現代では飲酒運転は鳴りを潜めて、操作や判断の誤りによるものが多い。
交通事故死の死因について、正面衝突の場合、ハンドルやフロントガラス、インパネへの激突や、変形した車に潰されることが挙げられる。衝撃が大きい場合は、車外に投げ出されて叩きつけられる。これらの現象では、動脈断裂や内臓損傷による失血死、頚椎や頭蓋骨の骨折、心臓が破壊されることによる心停止が引き起こされる。
よく車の衝突エネルギーは落下時のエネルギーと比較される。時速25kmなら2.4mの高さから落下したのと同じエネルギーであり、時速50kmなら10m(3~4階相当)、時速100kmなら40m(10~15階相当)である。
車対歩行者の場合、車のスピード、車の種類と被害者、ブレーキの有無により被害状況が大きく異なる。死因の大半は頭部損傷である。
- 車のスピード
- 車の種類と被害者
- ブレーキの有無
頸部骨折は時速27.5km以上で可能性があり、時速67.5km以上で確実となる。脚部骨折は時速40km以上で可能性がある。胸部大動脈の断裂は時速63km以上で可能性があり、時速85kmで確実となる。四肢の切断ならびに胴体切断は時速88.5km以上で可能性がある。
時速30~50kmで歩行者の体はすくい上げられ、ボンネットやフロンガラスに激突する。時速70km以上で天井の上にはね上げられる。歩行者は車体の後方横に滑り落ち、フロントガラスには歩行者の髪や衣類の繊維が、歩行者の衣類には車の塗料が付着する。
被害者が子供の場合、重心が上の方にあるため、ボンネット上にすくい上げられずになぎ倒され、轢かれてしまう。トラック対大人の場合も同様の現象が起きる。トラックはフロント部が平らなので、運動エネルギーが全身に伝わった後、車体の下に巻き込んで轢断する。
衝突直前にブレーキを踏んだ場合、車の先端が前方に沈む。これにより車のバンパーと脛やふくらはぎの骨折の位置が一致しないことがある。被害者が子供の場合、もしくはトラック対大人の場合、体は車の下に入らずに投げ飛ばされる。
3.11.2 列車
乗客なしでの一両の列車の重量は軽くて20tであるが、車の重量を1tとすると、運動エネルギーは車の20倍に達する。制動距離は車の3倍以上必要であり、走行中に100m手前からブレーキをかけても、間違いなく間に合わない。
列車での自殺を意図した人身事故では、急行や特急電車などのノンストップ電車がホームを通過中に線路内に飛び込むケースと、線路内に立ち入って電車が来るのを待っているケースがある。いずれにしろ、列車のフロント部に激突して、骨折や内臓破裂、大血管の切断を引き起こした後、前方に飛ばされた場合は車輪によって轢断される。衝撃により瞬時に血圧が下がり心停止するため、バラバラ死体となってもほとんど出血しない。とはいえ、轢断面のわずかな出血から、はねられた際に生存していたか判定することは可能である。レールの上に横たわっていた場合は、レールの通りに体が切断される。
轢断された手首や指先が、電車の車体の下の脂ぎっている箇所にはね上げられ、血糊と脂でくっついてしまうことがある。すると3ヵ月もすればミイラ化し、車検の際に発見されて変死として届け出を受ける。
新幹線との衝突事故では、人の形をとどめていないことが多い。400~500mの範囲に肝臓、頭髪と頭皮の一部、脊椎の一部、右手首、3本の歯を散乱させた例や、上半身が30m飛ばされ、あたり一面が血の霧で覆われた例がある。
3.11.3 航空機
航空機の墜落事故では、身体各部が離断し、脳や内臓が散乱して人の形をとどめていないことが多い。火災のために、その部分遺体でさえ焼損していることが多い。離着陸時の事故は、飛行中に比べて軽度なことが多い。
飛行機事故では死因を解明するため司法解剖が行われるが、心情的な理由から乗客は解剖をせず、乗務員のみ解剖する。