3 殺人の手段と結果

3.7 感電死

 家庭用・工業用電力もしくは落雷により受ける障害を感電と呼び、それによって死亡した場合を感電死と呼ぶ。
 75%は自殺であり、続いて電気工事関係者の事故死が多い。家庭用電源を使った自殺の場合、電気コードの両端を裸線にし、皮膚に二ヵ所接触させる方法が多い。体との接触部分を濡らして電気抵抗を下げることと、タイマーにつないで睡眠中に通電することが行われる。家庭用電源は100~200V、工業用電源は400~7000V、送電線の高圧電線は数万~数十万Vの電流が流れている。

 導電性は電圧、威力は電流により決まる。交流は同じ電流の直流に比べて3~4倍の影響があり、また直流は触った人間が弾かれるため、交流の方が危険である。周波数は40~300Hzが危険。

交流電流の強さ 人体への影響
0.01~1mA 皮膚がチクチクと感じる
1.5mA 前腕が屈曲
15~25mA 筋肉が痙攣し、握りしめた手を開くことができなくなる(把握電流)
25~80mA 血圧上昇、動悸、不整脈
80~100mA 0.3秒以上の通電で心室細動が起きる
100mA以上 心停止、肺水腫
 電気の影響を受けやすい臓器は、脳、脊髄、心臓、呼吸筋。「脳から心臓を経由して足」へと流れるのが最も危険とされ、心臓を経由する「手から手」と「左手から右足」、「右手から右足」の順で危険である。交流で80mA以上の電流は、3秒ほどの通電で、心筋の収縮リズムを崩しポンプ機能を失わせる、心室細動を引き起こす。5分以内に電気除細動器で心臓の動きをリセットしなければ、血液が循環せず、脳の低酸素症に陥る。また、1A以上の電流が流れると、心室細動を超えて心停止と呼吸停止状態に陥る。時間が短ければ心拍は戻るが、呼吸は自力で回復しない。長時間電流が流れると、体内に熱が生じ、熱傷により細胞や内臓が損傷を受ける。例えば2Aの電流が流れると、湿潤状態での人体の抵抗値は500Ωであるので2kWの発熱を生じる。ただし、家庭用電源では低電圧であるため、局所的に火傷する電流斑を残すことがある程度である。生存した場合でも、火傷のように二次ショックや感染症により遅れて死亡する場合がある。昔の夏場の工事現場は、床面は水で濡れ、労働者は汗をかいていたため、不注意で電流が流れた際に電流斑ができず、死体の所見から心臓発作との区別が難しかった。
 直流でも、1000V以上の高電圧感電の場合は危険である。交流のような強直痙攣や心室細動は起きにくいが、呼吸器系の麻痺、心停止、直火であぶられたようで骨折を伴う激しい火傷を生じる。電流の流入部や流出部から周囲に向かって、稲妻状で赤色の電紋が見られることがあるが、死後数時間で焼失する。
 落雷では、数千万V、数万~数十万Aともいわれる強力な電流が短時間流れる。電気エネルギーによるショックと、機械的エネルギーによる損傷が死因となる。
 電気椅子は、頭に電気ヘルメットを被せ、右足に電気プラグをつなげることで通電する。意識を失わせるために60Hz、2000Vの交流を3~5秒流し、次に心停止と呼吸停止を目的として250~500Vの電流を流す。死刑囚の体は第三度の火傷により煙を発すると言われている。