2 殺人の心理
長くなるので先に結論を述べると、世の中には人を殺せるタイプの人間と、人を殺せないタイプの人間がおり、遺伝や環境で決まる。人を殺せるタイプの人間は、人を殺せないタイプの人間が思いつかない理由や状況で殺人を行う。また、人を殺せないタイプの人間も、毒殺などの対象から物理的に離れた殺害方法を用いることで殺人のハードルを下げることができ、訓練を行うことでも矯正できる。
「手段」ではなく「心理」を最初に載せるのは、殺人を行う側に対して、本当にその殺人が必要か、自身を冷静に分析してほしいからである。序論で殺人は日常的に起こり得る行為だと記載したが、日本での殺人の犠牲者は2017年で年間306名である。どれくらいの人が殺意を抱いているかは分からないが、働き盛りの年代も既婚者も7000万人程度であることを前提にすると、殺人を思い立ってから現実での行為が伴う割合は、極めて低いと思われる。つまり端的に言えば、大多数には時間を浪費せずにさっさと諦めてほしい。
別の見方としては、本章は自身を偽るために使用できる。警察ではプロファイリングによって捜査対象を絞るケースがあるため、自身を偽ることで捕まりにくくなるかもしれない。また、万が一裁判を受けることになった場合に、心神喪失や心神耗弱(こうじゃく)と誤診させる戦術を選べるかもしれない。
1節では「犯罪心理」について述べる。犯罪原因論では犯罪を引き起こしやすい人間の認知傾向や生来の特徴について、プロファイリングでは殺人のケースに応じた統計的な殺人犯の特徴について説明する。
2節では「戦争の心理」について述べる。戦争で善良な兵士が敵兵を殺すにあたり問題になる、抵抗感とトラウマについて述べ、それらを克服する訓練方法について説明する。
3節では「自殺の傾向」について述べる。自殺を促進する心理的・物理的要因や、自殺の主要なタイプについて説明する。
4節では「被害者学」について述べる。被害者学は、犯罪者ではなく被害者や被害に着目した学問であり、被害を受けやすい被害者の存在が指摘されているので説明する。
参考文献
- UNODC(United Nations Office on Drugs and Crime) Victims of intentional homicide
- 犯罪捜査の心理学 凶悪犯の心理と行動に迫るプロファイリングの最先端 越智啓太
- 入門 犯罪心理学 原田隆之
- 殺人者はいかに誕生したか 「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く 長谷川博一
- 平成30年度 犯罪白書 法務省 法務総合研究所
- 図解入門 メディカルサイエンスシリーズ よくわかる精神医学の基本としくみ 武井茂樹
- 学生のための精神医学 第3版 太田保之 上野武治
- 統合失調症 村井俊哉
- 統合失調症 精神分裂病を解く 森山公夫
- DSM・ICD対応 臨床家のための精神医学ガイドブック 池田健
- DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 髙橋三郎 大野裕
- 犯罪心理学入門 福島章
- 犯罪者プロファイリング 犯罪を科学する警察の情報分析技術 渡辺昭一
- FBI心理分析官凶悪犯罪捜査マニュアル上 ロバート・K・レスラー
- アルツハイマーはなぜアルツハイマーになったのか 病名になった人々の物語 ダウエ・ドラーイスマ
- 戦争における「人殺し」の心理学 デーヴ・グロスマン
- 刑事精神鑑定ハンドブック 五十嵐禎人、岡田幸之
- 自殺論 デュルケーム
- 被害者学 諸澤英道