3 殺人の手段と結果

3.6 焼死

 火傷は進行度に応じて、第一度の赤く腫れた紅斑、第二度の水ぶくれ、第三度の皮膚の壊死、第四度の炭化に分けられる。火傷の深さとしては、第一度は表皮まで、第二度は真皮まで、第三度は脂肪まで達している。火傷の程度は温度と時間に関係し、70℃では1秒で皮膚障害を発生するが、45℃では6時間くらいかかる。第一度は40~50℃、第二度は50~70℃、第三度は65℃以上で発生する。第三度に達すると、敗血症や肺炎などの感染症を起こしやすくなる。焼死の死因は、火の熱による火傷、酸素欠乏、煙や一酸化炭素の吸収である。早期に消火された場合も、早い場合は神経性ショックや脱水により死に至り、遅い場合は熱気を吸い込んだことにより気管支が損傷し、敗血症や感染症などで死に至る。火傷の重症度は面積によって決まり、大人は体の20%、子供は10%以上の第二度の火傷を負うとショックを起こす危険性がある。火傷をしてから6時間以内に発生する、皮膚の知覚神経刺激が原因で発生するショックを神経性ショックと呼ぶ。24~48時間後に起きる、敗血症や感染症が原因で起きるショックを熱傷性ショックと呼ぶ。また、成人は第二度の火傷が体表面積の1/2以上、第三度の火傷が1/3以上に及ぶと死亡すると言われている。体表面積の計算では、ルールオブナインと呼ばれる法則が用いられ、頭部が9%、腕一本が9%、胴体腹側が18%、背中側が18%、足一本が18%で計算される。
 生前に焼かれた遺体は、皮膚に紅斑や水泡を生じ、気道の粘膜が灰白色や淡褐色に変わっている。炭化した遺体は、凝固した筋肉により関節が半屈曲して、ボクサーのファイティングポーズ様の姿勢を取る。皮膚は真っ黒になりひび割れたようになるか、消失する。胸郭や腹腔から焦げた内臓が露出することもある。

 火葬では、遺体は棺に入れられ、800~1200℃で70分間むらなく加熱する火葬炉により灰に変えられる。この800℃の下限は厚生労働省の「火葬場から排出されるダイオキシン類削減対策指針」によるもので、実際は800℃以下でも火葬は可能である。火葬時の遺体の状態は次のとおりである。

  1. 頭部
  2.  開始から10分で、頭皮が焼失して頭蓋骨が露出する。30分後には筋肉は消失、骨は石灰のようになっており、頭蓋骨が破裂する。40分後には頭蓋骨が焼け落ち、凝塊した脳が露出する。60分後には頭蓋骨のほとんどが崩れ落ちて灰になる。
  3. 胴体
  4.  開始から20分で、胸の皮膚が焼失して焦げた筋肉が露出し、胸骨は崩れ始める。30分後には、胸腔と腹腔から黒く焦げ固まった内臓が見えるが、水分の多い小腸だけ原形を保つ。60分後には崩れ落ちて灰になる。
  5. 四肢
  6.  開始から20分で、皮膚が焼失して焦げた筋肉が露出する。30分後には足の筋肉がほとんど焼失し、関節から先が外れる。40分後には前腕は崩れ落ちて灰になる。50分後には上腕も崩れ落ちて灰になる。大腿骨が石灰化した切り株を見せる。
 火以外でも、熱湯、化学薬品、電子レンジなどの電磁波によって火傷する可能性がある。化学薬品による薬品火傷は、薬品が皮膚を侵食することにより起きる。水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ性の薬品は、火傷と水泡を伴いながら細胞を液体状に壊死させ、皮膚を穿孔していく。酸性の薬品は、細胞を固まらせるように壊死させ火傷をカサブタ状にする。硫酸は溶かすのではなく、細胞の酸素を奪って焦がす違いがある。濃度が同じなら、アルカリ性の方がタンパク質と脂肪を溶解しやすいために危険である。カサブタの色は薬品の種類と濃度によって変わり、硝酸は黄色、硫酸は黒もしくは茶色、塩化水素酸は白または灰色、フェノールは明るい灰色や明るい茶色となる。
 死体の処理で火を使うのは困難とされる。煙や異臭が出るはもちろんのこと、一度ガソリンやライターオイルをかけて火をつけても、水分が60%を占める人体を焼ききることはできないので、火葬炉のように燃料を70分間つぎ足す必要がある。実際の事件においても、黒焦げや手足が欠損するところまで燃焼が進んでいても、内臓はほとんど変わっていないということが多い。一方、18リットルの灯油で自殺した例では、2時間以上経過しても火は消えていなかったという。
 警視庁では、水死体と焼死体に対して、自殺なのか他殺なのか事故死なのかをはっきりさせるために、司法解剖を行っている。